1.実は、不動産の名義変更は義務ではない!?
昨今、TVや雑誌などで「所有者不明土地」という言葉が話題に上がることが増えてきました。
相続などで所有者が変わったにも関わらず、名義書き換えをしていない場合は、最新の所有者が分からなくなってしまいます。そうすると、第三者に売却したり、土地を開発したり整理したりする際に、「土地が誰のものか」がわからず、手続きが進められないケースが多く発生しています。
そういえば、以前親父から相続した土地があるんだけど、名義書き換えをしてないかもしれないな。自分がそのまま住んでいるし、親戚も近くにいるから、誰も困ってないし。
50年以上名義書き換えが行われていない土地は、都市部で約7%、地方では約27%あると言われており、大きな社会問題となっています。
その結果、所有者不明土地があると、土地の利用や活用が困難となり、民間の土地取引の阻害要因となったり、防災等の公共事業の用地取得や、森林の管理など様々な場面で支障を生じさせているほか、土地が管理されずに放置され、土地の管理不全化や周辺環境の悪化にもつながっており、経済に著しい損失が生じています。
なぜこうした問題が起こるのかといいますと、そもそも日本の法律では、不動産の名義変更は義務ではないためです。わかりやすく言うと、法律上、不動産の名義は「他の人と権利を争うような場面で、自分が所有者であると明示したければ、してもいいですよ。」という位置づけになっており、必ず行わなければならないわけではないためです。
確かに、親父の相続の時に、誰からも土地の名義変更をしろって言われてなかったし、役所でもそんな話にはならなかったな。
民法上、不動産登記は「対抗要件」と呼ばれ、第三者に対して自身の権利を主張する際に、登記をもって行うこととされています。
従って、第三者が関与する取引を行う場合として、例えば相続した土地を売却する、住宅ローンを返済する、といったような場合ですと、不動産業者や金融機関から、名義変更を行うように要請されます。
名義変更を行っていない場合、固定資産税の通知書を見ると、所有者がお父様となっていると思いますが、そのままでも税金さえ払っていれば、役所から何か言われることもないので、名義をそのままにしている方も多いのではないでしょうか。
一度、ご自身の土地の名義がどうなっているのか、調査しておくとよいでしょうね。将来もし売却や生前贈与などをしようとした場合、ご自身の名義になっていないと、手続きが進められないということもあります。
上記記載の社会問題に対し、所有不明土地の発生予防の観点から、その主要な発生原因である相続登記(不動産の名義変更)や、住所変更登記(所有者が住所を移転した際に行う住所変更手続き)の未了に対応するため、国はこれまで任意としてきたこれらの登記を義務化するとともに、その申請義務化の実効性を確保するため、各種の環境整備策を導入することを決定しました。また、所有者が不明なことによる弊害は土地だけではなく建物についても指摘がされていることから、建物についても同様の方策が導入されることとなっています。
2.相続登記(名義書き換え)が義務化される!?
名義書き換えをしていないと、最終的には自分や家族が困ってしまうんだね。ちゃんとやっておかないと、結局は自分たちが困ることになるかもしれないね。
そういえば、最近雑誌で見たんだけど、相続登記(名義書き換え)が義務になるって書いてあったなあ。それは本当なの?
義務っていうからには、守らなかったら罰則があったりするのかな?
時期は、令和6年(2024年)4月1日から義務化されることになっています。
相続発生日(お亡くなりになった日)が、この日より前であっても、義務化の対象となりますので注意が必要です。
罰則もあり、10万円以下の過料とされています。
ただし、正当な理由がある場合は課されないこともありますが、要件は厳しくなる事が予想されます。
相続が発生しても相続登記がされない原因として、
①申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少ないこと。
②相続をした土地の価値が乏しく、売却も困難である場合には、費用や手間を掛けてまで登記の申請をするインセンティブが働きにくいこと
などが指摘されています。
そこで改正法では、相続により不動産の所有権を取得した相続人に対し、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるとともに、正当な理由がないのにその申請を怠った時は、10万円以下の過料が課されることとなっています。
合わせて、相続登記の申請義務の実効性を確保するための環境整備策として、相続人申告制度や所有不動産記録証明制度を新設するなどとされています。
3.改正法の詳細
相続登記の義務化に関する、法改正についてご説明いたします。
詳しくお知りになりたい方はご一読下さい。
不明な場合は、ご遠慮なくお問合せフォームからご連絡頂きますと、回答させていただきます。
(1)相続登記申請期間
義務化された相続登記の申請期間(いつまでに申請しなければならないか)については、以下の①②の両方を満たした時点までに行うように定められています。
①自己のために相続の開始があったことを知った時(=自分が相続人である、と認識した時)
②相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内
条文の表記だと少々分かりにくいので、補足します。
①については、通常は故人様のご逝去日となります。もし、日頃関係が疎遠で、全く連絡を取っておらず、よってご逝去されたことを知らなかったような場合は、故人様がご逝去されたことを知った日となります。第2順位(親、祖父母)や第3順位(兄弟)が相続人となる場合は、先順位の相続人がいない事が判明した時点(故人様に子供がいないことや、親や祖父母が先死亡しているなどを知った時点)となり、事情をどこまで知っていたかどうかによって、認定日が変わってくることとなります。
②については、自宅などの故人様名義の不動産があることを、相続人が知っていた場合は、相続人は法定相続分での取得が潜在的に認められるため、遺産分割協議が成立しているか否かにかかわらず、故人様のご逝去日から3年以内となります。故人様名義の不動産の存在を全く知らなかった場合、もしくは一部の不動産については存在が判明しなかった様な場合は、その不動産については、故人名義であることを知った時から3年以内となります。
相続人間で「遺産分割協議が成立しているか」には関係なく、不動産を取得するかどうかが未定であっても、期間算定のカウントはスタートしている点に留意が必要です。
(2)申請義務者の範囲
申請義務者の範囲(誰が申請しなければならないか)については、基本的には法定相続人全員にその義務があると考えておく方が無難です。
ただし、(1)の期間の間に遺産分割協議が成立したり、故人様が遺言書を作成していた場合については、特定の相続人が不動産の所有者を取得することが確定したため、権利を取得した相続人のみに登記申請の義務が生じることとなります。
遺産分割協議が成立したり、故人様が遺言書を作成していた場合については、特定の相続人が不動産の所有者を取得することが確定したため、権利を取得した相続人のみに登記申請の義務が生じます。
(3)相続登記申請の方法
上記(2)で申請義務者となった方は、以下のいずれかの方法で相続登記申請を行うことで、義務を果たしたものとされています。その方法とは、具体的には次のとおりとなります。
①「所有権を誰が取得するか」が申請期限内に確定した場合
⇒ 「取得者のみ」で相続登記申請を実施する。
②「所有権を誰が取得するか」が申告期限内に確定しそうにない場合
⇒ 一旦は、「法定相続割合」で相続登記申請を実施する。
※法定相続割合とは、法律上で相続人となる人に対して、その定められた配分割合。
上記②の後、遺産分割協議が成立した時点から3年以内に、改めて相続登記申請を行うことにより、登記申請義務を果たしたこととなる点に留意が必要です。
(4)相続人申告登記(相続登記義務のみなし履行)について
今回の法改正により、新たに設けられた制度として、「相続人申告登記」があります。
この制度は、所有権を誰が取得するかが申告期限内に確定しそうにない場合に、(3)②に記載した方法(一旦は法定相続割合で申請する)に代えて、「この不動産は現在相続が発生しています。」という旨を法務局へ申告し、法務局がその旨を登記簿に記載することによって、「登記申請義務を果たしたものとみなす」というものです。
この制度のメリットは、「相続人が誰かがすぐには判明しない」ような場合、戸籍収集等による相続人の調査に多大な時間を要し、結果として申告期限を経過してしまう恐れがあるような際には、相続人の1名のみから行うことが出来るため、簡易に義務を果たすことが出来るとされています(不動産登記法76条の3)。
また、相続人申告登記の手続も簡易なものとされており、現時点では詳細は未定ですが、申告者1名の戸籍謄本など、容易に入手が可能なものとされています。登録免許税(不動産の名義変更に必要な税金)も非課税とされており(登録免許税法5条2号)、相続人の負担軽減策として導入されております。
新たな制度として「相続人申告登記」制度が発足する。
相続人の調査や、遺産分割協議など、「誰が相続人か」「誰が不動産を取得するのか」を決めるにあたって、時間を要する場合に本制度を使うことで、登記義務を免れることが出来る。
(5)相続登記申請に要する法定費用(登録免許税)
相続登記に直接かかる費用として、国に納める税金である「登録免許税」が生じます。司法書士へ依頼する場合は、これとは別に専門家報酬が発生します。
登録免許税は、原則として「不動産の価額 X 0.4%」となっています。
価額とは、「固定資産税の評価額」となっておりますが、調べる方法としては、「固定資産税評価証明書」という公的書類を、各市役所の資産税課などの窓口で取得することで、把握することが出来ます。
不動産の価額が高額の場合、登録免許税も高額となってしまうことから、相続登記が進まない原因の一つと指摘されています。そのため、様々な減税制度がありますので、ここではその一部をご紹介します。
㋐故人の名義に名義が変更されていない場合
例えば、先祖代々の土地で、名義が先代名義のままで放置されているような場合です。
相続登記は「先代名義⇒故人名義⇒相続人」というように、相続した順番通りに、途中を省略することなく行わなければなりません。そうすると、この場合では相続登記を2回(先代名義から故人名義への変更で1回、故人名義から相続人名義へ1回の計2回)行わなければならないため、登録免許税も2倍かかってしまいます。
そうしたことで、先代名義のまま放置されていた不動産も、全国にはかなりの数が存在していると考えられており、高額額な登録免許税が所有者不明問題の一因であると指摘されています。
登録免許税の軽減策の一つとして、先代名義のまま残っている不動産の登録免許税については、複数回にわたって手続きを実施するとしても、納付額は1回分でよいとされています。
なお、本軽減措置は期限付きで、平成30年4月1日から令和7年(2025年)3月31日までとされています。
㋑不動産の価額(土地に限る)が100万円以下の場合
特に地方で多く見られる、売るに売れない土地や、誰も相続をしたがらない土地などに関し、費用を掛けてまで名義変更するメリットが少なく、よってなかなか進まない結果、所有者が不明となってしまうケースが多くみられます。
不動産の価額が100万円以内の「土地」については、登録免許税が非課税とされています。
仮に土地の価額が100万円の場合、登録免許税は4,000円となりますが、土地を複数所有していた場合は、その筆数分の登録免許税が発生し、結構な負担を強いられることとなりますので、「経済的な価値は低いが数は多い」といった、相続人泣かせの土地については、軽減措置がおこなわれています。
㋒相続人申告登記を利用する場合
相続人申告登記については、相続人申告義務者の負担軽減の観点から、登録免許税が非課税(かからない)こととされています。(登録免許税法5条2号)
(6)相続登記等の義務違反のペナルティー
上記のとおり、相続登記の申請義務があるにもかかわらず、正当な理由なく申請を怠った場合は、10万円の過料が課されられるとされています。
正当な理由として想定されているケースとしては、①数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合、②遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている場合、③登記の申請義務がある者自身に重病等の事情がある場合、④登記申請義務を負う者が、いわゆるDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶ状態にあって避難を余儀なくされている場合、⑤経済的に困窮しているため登記を要する費用を負担する能力がない場合、などが想定されています。
(7)登記申請義務の開始日(法律の施行日)
相続登記の義務化、および相続人申告登記制度については、令和6年(2024年)4月1日より開始することとされています。
なお、上記開始日よりも前に発生した相続であっても、本義務化の対象となる点には留意が必要です。(ただし、少なくとも施行日から3年間は、猶予期間を置くものとされています。(改正法付則5条6号))
上記の他、所有者不明土地の解消の観点から、今回の法改正では、様々な法改正が予定されております。相続制度は大きな転換点を迎えており、国としても本腰を入れて、問題に取り組む姿勢を示しています。各種改正については、専門家から正確な情報を入手し、不測の事態とならないように対応頂くことをお勧め致します。
(参考文献)
・月報司法書士第609号特集「相続登記義務化等の制度改正と司法書士の使命」